アウェイ

錦織のクレーシーズンは過去最高の結果でした。最後のツォンガ戦は勝てる相手だったがまさかあのベテランがあれほどやるとは思っていないので虚をつかれた印象はありますね。おそらく現地のファンですらも彼のあのレベルのプレーは久しぶりか下手をすると初めてくらいのものだったのでは。勝者のはしゃぎようからもそれは伺えます。まだ準々決勝だぞ‥という雰囲気は漂っていましたが。ツォンガは「いつかやりたかった」というパフォーマンスを早々とやってしまったことでセミファイナルでの低調が予想されますが果たして。まあそれくらい今の錦織に勝てたことが誇らしかったのだろう。フランスの観客よりも遥かにこの若き日本人プレーヤーをリスペクトしていた証とも言えます。

結局は序盤の謎の低調ぶりが響いたということで、中断後の好パフォーマンスがあと2ゲーム前に始まっていたら逆に3-1で勝っていたと思います。力関係から言えばそうなるのですが、この日は不思議なくらいに単調なプレーに終始していた。ドロップショットの感覚も悪かったのだろうが、それ以前にショットの多様性に欠けていたのが気になった。錦織のショットは長短に高低、角度さらに時間まで自在に使いつつ相手を翻弄するのが真骨頂。その幅を狭くしていたのが“作戦”の一部だったのかは明らかにはされないはずだが、ひとえにフランス人との打ち合いを望んだことで相手を調子付かせたのは事実。完全アウェイの偏向応援も手伝って錦織のメンタルは平静さを失いかけていました。それがあのありえないアクシデントで変わってしまうのだから面白いですね。すでに勝機を失っていたとは言え、そこからの二人のプレーは興奮に値するもので、本当にクレーなのかと思うほどの早い展開など随所に見所がありました。

錦織の今季のクレーシーズンは4大会に出場して13勝3敗。バルセロナで優勝し、そのあとはマレー、ジョコビッチ、そして今回のツォンガに敗けた。本人も言ってる事だけど満足できる内容でしょう。昨季得た自信をさらに深める事ができたはずで、来季につながると思います。チャンをコーチに迎えた選手が「全仏でグランドスラム初制覇」は素敵なシナリオだと思っているが、来年のそれまでには3つのGSがあり、そのどれもにチャンスがあるのが今の錦織。マスターズ1000での初制覇も早く観てみたいものだしその可能性がある日本人選手の存在に感謝しかない。