全豪8強

MATCH STATISTICS
大会を通じてその特徴である攻撃性を見せられなかった錦織。逆に言えばまだ課題がある中でのベスト8は今季の活躍を十分に担保するものだ。

今大会の勝ち上がりにおいて相手が錦織に対してどのように戦ってきたか。錦織対策─おそらくATPでは統一された見解が出来上がりつつあるような印象を受けた。それは「攻め続ける」ということ。全米でのチリッチがそうであったように。錦織は試合において相手との駆け引きを通じてリズムを作っていく傾向があると思う。相手がある競技だからそれに優れた錦織が今の位置にいることは自然ではあるが、言うなれば「会話」が出来るかどうかが鍵なのだ。彼はストロークが武器でありそのショットを重ねることでテンションを上げていく。何しろその打ち合いではBIG3にも勝てるレベルだから、やればやるほど気持ち良くなるのも道理。ストロークを通じて「会話」をして楽しくなっていくのが彼の流儀なのだと感じているが、今大会で相手が仕掛けてきたのはその「会話」を極力しないということ。長いラリーを避けるために強いサーブ、強引なリターン、早いタイミングでのハイリスクなショット‥‥。これらは格上相手であればある程度は必要な要素ばかり。でも今大会は誰もがかなりの偏り方でこれを遂行していたと思う。フェレールを除いて。

1週目の3試合は驚くほどに守備的に戦い、それらを制した。受身に見えたそのプレーは錦織サイドの「セーブして戦う」意向と相手サイドの対策が噛み合った結果だろう。錦織の良さはあまり発揮されなかったがそれでも無難に勝ち上がったことが彼から積極性を薄れさせたのか。今回の勝ち上がりがどのような感触だったのかは本人にしかわからないことだが、それを続けていたということはそれなりに目的に沿ったものだったのだろう。問題はその謂わば「我慢」をしてきた意味をバブリンカ戦で見出せなかったことであり、錦織が先手を打ってリスクをかけるくらいのことをして欲しかったのだがそうはならなかった。それでも3セットめで捕まえたのは彼らしいがすでに遅い。まあバブリンカに強く意識させるレベルになったことをまず讃えたいところだけども。

彼は四大大会でベスト8がまだ3度目。まだ少ない大舞台での経験ができた。今回のことは大きな意味を持つだろう。
個人的には感謝しかない。