歴史

早くも今季を代表するような勝利、2ゴールだったと言えるのではないだろうか。この節のリーグを見渡しても真っ先にトピックになりうるものだし、実際そうなっている。

国際Aマッチデー期間を控えて、世間的な耳目は湘南の町野に集まるはずのこの試合で、話題をかっさらったのはアビスパの劇的な勝利だった。そういう意味でも大きな勝利だったと言えるだろう。

前半はチャンスも作れていたが良いプレー、クオリティに欠けていた。また相手の嫌らしい守備、マークに悩まされてもいただろう。あまり印象の良くないものになった。まあこれが湘南戦ということだ。そして後半になり、嫌な時間帯で相手にファインゴールを決められてしまう。

ここで(つまらない)イエローをもらっていたグローリを下げて、鶴野を投入。4バックにするのはわかるが、山岸とルキアンは残している。これでFW登録の4人がピッチにいるわけで、確かに彼らはSHも出来るし面白いなと思いながら見ていた。まさかだったのは前と佐藤の交替で、ここから真に攻撃へのスイッチが入ったなと。システムは曖昧になり、対する湘南は定石の交替策を講じて、かなりオープンな展開が始まった。混乱といってもいい。ただしアビスパは明確すぎる狙いがあり、それは機能していた。

ウェリントンの復帰は驚きだったが「まあハマるよな」とも感じていたので、あとは良いプレー、シュートがあれば、ということになる。そのためのFW5人でもあるだろう。それでも90+5'まではもどかしい状況が続く。そして。

右サイドのルキアンが最終ラインまでのパスを出して当然のように前線に上がっていく。的は増えるわけだが、宮のフィードはこれも当然のようにウェリントンへ。期待通りに競り勝ったボールは駆け上がったルキアンには届かなかったが、相手がクリアしようとしたボールが導かれるように山岸へ。ワンステップからコンパクトなモーションで放たれたボレーシュートがゴール右上隅へ。そこしかない、と言えるような弾道だった。これってプロが見ても面白いキックなのではないかと。フラッシュであのキックを選択したのならかなりレベルの高いものになっていると思う。またこのシーンではルキアンがゴール前でつぶれて横になっており、彼は真下からあのシュートを見ていたと思うので、これもかなり珍しい体験だったのではないだろうか笑。

ここからお互いがゴールを求めるわけだが、押しているのはホームのアビスパだった。やはりその気持ちがあの永石の見事なフィードに繋がり、さらに鶴野がおさめてボールを運ぶ。FW勢がゴール前に雪崩れ込んでラインを下げる。そして鶴野が対面をかわして目の前にいたのはフリーになっていた山岸。丁寧なラストパスが供給されると細かくステップを踏んで強くミートされたシュートはまたも右隅に突き刺さって歓喜が爆発する。

こういう「終了間際の」というものはフットボールではままあることだが、これは2ゴールでの逆転劇だ。しかも90+6'、90+9'という、およそJリーグの歴史でも稀有な出来事がアビスパによってなされたのは素晴らしいのひと言に尽きる。おめでとう、の方が相応しいかもしれない。

そしてプレー再開直後にタイムアップ。本当にラストプレーがあの映画のようなフィナーレを作り上げたのだ。映画のような、と言えば博多の森ベスト電器スタジアムでは長らく勝利後のお約束として「トップガン アンセム」が流れる。そのアンセムをBGMに選手たちが喜び合う映像を見て「この選曲の良さ」をあらためて感じさせてくれたのも嬉しい。

それにしてもフル出場して最終盤にクオリティを発揮するというのは凄いことだと思う。山岸は今季これまでゴールこそ無かったが、勝ち点に貢献し続けていた。これは長谷部さんも言っていることだ。だから彼がこのゴールによって何かが良くなったということではないだろう。ずっと良かったので。前節のときに「周囲との連係が進めば」みたいなことを書いたが、まさかこんなカタチでゴールが決まるとは思いもしない。

まあマークはこれからも続くだろうが、ストライカーの勲章として受け入れて、立ち向かってほしい。いやあ、しかし凄い勝利だった。ホームでの連勝が続いているので、この流れを活かして次につなげてもらいたい。