いわゆる底上げ

ダニエウ・アウヴェス

今のスペインリーグで一番“いいチーム”はどこかと問われたら、迷わずセビージャと答えるだろう。“強いチーム”“巧いチーム”は他に譲るとして、“いいチーム”セビージャのフットボールの印象は「遊びの無い攻撃フットボール」。
ハードワークに支えられたチームとしての一体感の中で、若者たちが才能を開花させたことも特筆すべきで、レナトカヌーテら計算できた中堅に加えて、アドリアーノ・コレイアやプエルタ、ヘスス・ナバス、そしてダニエウ・アウヴェスといった若手の台頭が本当に素晴らしいのだ。
  
そうしたタレント達にファンデ・ラモス監督の攻撃的な志向がモロにはまったのが今のセビージャなんだけど、そのファンデ・ラモスが言うには、
フットボールで必要な要素は、テクニック、クオリティ、スピード」
なんだそうだ。そしてとりわけ「スピードが重要」だという。
それは多分こういうこと。
スペインリーグでは「ショートパスを多用してつないでいく」というリーグとしての哲学を背景としているから、中盤の攻防が主導権争いのほとんどを占めることになる。じゃあ、テクニックこそが重要だろう、と思うだろうがさにあらず。巧いのは当たり前だから。(テクニックだけで差をつけられるのは世界中でもロニーくらい。それ以外は同じようなものなんだ)
考えるスピードが早ければ、狭いスペースでも迷わずにパスを通せるし、そのための予備動作もそこに含まれる。常に変わるゲームの機微をとらえて行動に移すには、頭のスピードがいるだろう。
そして密集した地域を抜けて一気にDFラインに襲いかかるスピード、これは判断プラス走力だ。そして攻撃から守備に切り替えるときのスピードは何よりも重要な要素かもしれないな。
こういう、ちょっと知識のある人間なら誰でも思い至ることを、忠実にかつ高いレベルで実現しているセビージャの試合を見るのは非常に楽しいのだ。
彼らは始めから強かったわけではない。ハードワークを支える練習量と向上しようとするプロ意識、相互理解などによって結果を積み重ねて、その中でメンタリティを磨いてきた。同じセビリアをホームとするベティスが、イルレタという名将を得てしても失敗してしまったことを考えると、セビージャのプロセスは幸運だとも言えるが、それもハードワークあったればこそ。あの90分間走り続けることのできるパフォーマンスには有無を言わせないものがあるんだよね。
  
今、雁ノ巣ではJ1復帰を目指すチームに相応しい練習が行われているようだが、選手達はどう理解するのだろうか。どの口からも「長い」という言葉が出てくるのには苦笑するしかないが、オシムが(巧くも強くもなかった)千葉で行ったようなメソッドがJで通用するのは証明されている。昨年の苦しい戦いを他人のせいに出来るヤツは一人もいない、なんてことは言うまでもないことだし、特に若手がどれだけ伸びるかが今季の最重要課題であることは間違いない、と思う。
去年の連勝時に見られたような能動的なプレー姿勢をシーズンを通じて発揮するには、各個人が明確な意図をもって、ハードで当然のキャンプに望まなくては。
  
今も移籍先が決まらない選手達がいるんだよなあ。そっちも気になって仕方ないが、そういう待つしか無い選手達と違って、自分を示すことの出来る環境にいることの幸せを、契約している選手達には感じて欲しいと思うよ。