完走

J1昇格プレーオフ 決勝 2015年12月6日(日)15:37KO ヤンマー 福岡 1-1 C大阪
ついに。北斗のシュートが左のポスト内側を叩くようにしてゴールに突き刺さった瞬間は本当に痺れたね。この試合でも彼は右サイドで素晴らしいパフォーマンスを見せていたのでこうやって報われたのは嬉しい。

さて試合を振り返ると、相手はいわば「POスペシャル」というべきチームに変わっていて、どうやってくるのかがよくわからなかった。今季スカウティングで冴えを見せていたアビスパとしてはまったくもって難しい試合だったと思われるが、おそらくコーチ陣は迷わせないための指導をしていたはずでプレッシャーのかかる中であっても立ち上がりは悪くなかったと思う。
ベースとなる守備に関しては相手のキーマンをよく見ながらもいつもの感じで中には入れさせない、ということなんだろうが、じりじりと穴を開けようとするタレント揃いのセレッソに対してはやや分が悪いように感じていた。攻撃面ではウェリントンが封じられていてロングパスからの展開が広がらない上、酒井にアクシデントがあり代わりに入った金森がケガ前の出来ではなかったのでやや手詰まりな印象だった。
この交代策は坂田or金森だったようで、井原さんは金森を選んだ。今季の坂田は戦術的に何かを加える(変える)ための投入がハマっていたのでこのタイミングではなかったのだろう。そしてこれは伏線になっている。

やはりアビスパとしては様々な要因から普段通りではなかったと思う。こういう状況では個に由来するメンタル面での弱さも見え隠れする両チームだが、こうなるとベテランが存在感を示すわけで、後半に入ると玉田が仕掛け始める。前半でアビスパのやり方を見て取った彼はDFを釣り出して出来たギャップへの早い展開を試すと2回目でものの見事にゴールに繋げた(60分)。敵ながらナイスゴールであり流石だなと言うよりない。トラッキングデータを見ると彼はこの日のセレッソで最速のトップスピード(32.5km/h)であり、今でも十分な競争力を持っていることが示された。ちなみにアビスパ側は亀川の32.9km/h。

個人的にはこの時間帯でこの展開は悪くないと思っていた。公平に見てもこれまでのアビスパならどこかで追いつけるだろうと踏んでいたからだ。そのためには何かを変える必要があったわけで、井原さんはある程度見極めてから坂田を投入する(73分)。これは秀人との交代であり攻撃的なものだ。この日の秀人はとても良かったと思う。今季のベストかもしれないと思えるくらいあの難しいエリアでつとめて冷静にプレーしていた。だからこの写真とかホント良いよね‥。
そして坂田が入ったことによって左サイドが活性化し始める‥。判断に優れる彼は周りを活かせるのでこの日イマイチだった左サイドの若者たちを引き上げる役割を果たすことに。

リードしていても余裕はないセレッソはリスクをかけて攻撃を続けていたがバイタルでのリスクまではかけきれてなかったのでシュートは打てていてもやや中途半端な印象はあった。そこでこの試合の最もギャンブル性の高い交代策が行われ、貴之in堤outとなるのだが(84分)、これは期待していたので嬉しかった。実際、貴之のプレーはすぐに効いていたしFWらしくバイタルで勝負しようとしていた。そういう積極性が必要な時間帯だったのでここで流れを引き寄せるとその3分後に劇的な北斗のゴールが生まれる。

あの得点シーンは、カウンターでパスを中盤で受けた坂田が目の覚めるようなスルーパスを金森に繋いで、その金森が切り返してカットインする気配を見せる。この日の金森は得意のドリブルでボールロストが多く持ち味を出そうとはしていたけれど相手DFにしっかりと対処されていた。それがここ一番ではDFを引き寄せてオーバーラップした亀川にパスを出している。この時は自分で行くことがまずあったようだが亀川の声が聞こえたので切り替えたということだ。今季の積み重ねがここに集約し、亀川が早いグラウンダーのセンタリングを送るとそこにいたのは貴之でおそらくヒールでのフリックを狙ったはずだが合わず。それを見た亀川は一度顔を伏せるのだが千両役者が右サイドから駆け上がって決めたのを見届けると起き上がってヒーローに駆け寄るのだ。
決めた北斗にしてもあのゴールには伏線があり、前のチャンスでは打てる局面でパスを選択した(68分)ことを自分で悔いていたからこそあの場面でしっかりと振り抜けたのだ。試合の中で修正できるのがベテランの味だろう。

ここからはヒヤリとする場面もあるのだがうまく時間を使ってゲームを締める。この日の彼我の差というのはつまるところシーズンの積み重ねであり、それをクラブの資金力で覆されなかったのは良かったと思う。長居を選んだリーグ側もある意味ホッとしているのでないだろうか。
そしてアビスパの選手・スタッフには感謝しかない。来季が楽しみだ。