期待

Fernando Gonzalez

あの完璧なテニスを見せられたら、
フェデラーに対してもいい線いくかもしれない‥。」
なんて思ってしまうな。
今の男子テニス界でそう思わせるプレイヤーは、クレーでのナダルくらい。だが、今大会のゴンサレスにはその期待感がある。それくらいのパフォーマンスをセミファイナルでやってのけたのだ。(まあ、フェデラーもだが‥)
  
以前の良くてもベスト8あたりで敗退するゴンサレスというのは、ハマれば凄いが平均値としてはTOP5に入れるようなプレーではなかった。エースかアンフォーストか、という白黒はっきりしたプレーだったし、競り合いにも強い印象はなかった。要するに雑だったんだ。パワフルだけど無駄が多くてね‥
ただし、それが魅力的ではあったが。
そんな彼しか知らなかったから、4回戦でのブレイクとの対戦は興味深く観ていた。お互い妥協をしらないパワーヒッターだし、「そこまでせんでも」というくらいのスイングで、会場から出て行きそうな勢いのボールをコートに叩き付けるようなタイプ同士だから面白くないわけがない。
  
プレー内容は期待通りの、呆れ返るようなショットの応酬だったのだけど、終わってみればストレートでゴンサレス勝利。ただ、僕には紙一重のものに見えたし、そのような際どい勝負をゴンサレスが制したというのが新鮮でもあった。バックハンドでのスライスを多用するようになったゴンサレスが、時には緩いショットでつなぐ事を優先させたりするというのは記憶にない。
どうやらコーチの指導による変化だということらしいが、この試合ではまだ「ゴンサレスらしさ」が色濃く残っていた。似た者同士の意地の張り合いがあったのだ。
彼に対する印象が変わりきっていないため、クウォーターファイナルまでだろうと思っていた。対戦相手はあのナダルだったから‥‥。それが結果を聞いてびっくり。何があったのかナダルにもストレートで勝っていたのだ。
  
そんなゴンサレスのプレーの何が良くなったのだろうか。セミファイナルでは先に触れたように、完璧すぎるといっても差し支えないくらいのパフォーマンスだった。
個人的には、TOP3クラスの選手に相通ずるショットの多様性が彼にも備わったからではないかと思う。何よりも速くて強いボールを打ち込むことに血道をあげていた(こんな表現が相応しい)頃とは違い、緩いボールも織り交ぜる事によって、スピードやコースだけだった組み立てに“時間”が加わったんだ。
この“時間”の使い方、感じ方が勝負の一因となることは、スポーツを競技としてそれなりにやった人間ならわかるんじゃないだろうか。現代テニスでは、一つのプレーに与えられる時間はとても短いのだが、その短い時間をさらに細かくわけつつ諸動作をなるべく正しく行おうと彼らは努力している。そんな世界で、時間を駆け引きできるプレイヤーは少ない。フェデラーは別格で、ナダルはその感覚を身につけているようだが、いかんせんパワーは乏しい。ロディックには兆しがあるのだけど、多分本人は理解していないんじゃないか‥‥。
  
あー長くなっちゃった。とりあえず、今大会のこれまでのゴンサレスには自信がみなぎっているのだけど、それがあのフェデラーを前にして、その半分も残せるだろうか‥? ファイナルが面白くなるにはゴンサレスの頑張りが必要条件だから、彼の変貌が本物であることを願ってやまないのだ。