ライバル

最高のファイナルはウィンブルドンの方。既に史上最強のオールラウンダと言っていいNo.1シードのフェデレと、やんちゃそのものだったころが懐かしい、サーブとストロークの破壊力に勝るロディックによって行われた男子決勝。それはまさにテニスのすべてがつまったようなゲームだった。
抜群のキープ率を誇るフェデレのサービスをいきなりブレイクし、そのまま第1セットをロディックがとってしまった。その均整のとれた肉体から繰り出されるサーブとフォアハンドストロークは、そのスピードと正確さで完全にスイス人の出ばなをくじいた。)このNo.1にランクされるスイス人は、変わったことにコーチを必要としていないそうだ。ユニークだとしかいいようがない。)
しかもそれだけではなく、誰も想像しなかったネットプレーでロディックがポイントを稼いでいく。この時点では「意外と上手いな」とは思った。ただしフェデレのそれとは比べようもないが。しかし調子のあがらないフェデレに対してプレッシャーを与えるには十分だったようだ。第2セットまでその流れは続いていくかと思われたのだが、個人競技は難しい。No.1を前にして3時間もトップフォームを維持するメンタリティとは、どんな人間が持ち合わせるのだろう。
スイス人が何かを仕掛けたようには見えなかったが、絶好調に見えたアメリカ人は、あっという間に2ブレークダウンを喫した。しかしだからといってフェデレが良い状態になっているようにも見えなかったので、しばらくすると5-5のタイになってしまう。ここで、より強気になれたのはフェデレ。しかも冷静にこのセットを獲得するための作業を始める。爆発的とは言わないが、十分なスピードと正確さのバランスが絶妙なサーブとストローク、そしてネットプレー。スイス人の感性によってセンターコートは見た目以上の拡張性を見せた。このプレイヤはテニスをどのように捉えているのだろうか。
このセットをとった後は、接戦ではあったが、不思議とフェデレが勝つことは疑わなかった。ロディックのネットプレーはその不安定さを見透かされた。多彩なショットで封じ込められ、結局はいつもいる場所に戻らざるを得なくなった。ベースラインに。それでもアメリカ人のフォアハンドやサーブは脅威であり続けたが、スイス人のフットワークはその脅威を半減させ、次第に正確性を削いでいった。
それにしても、あの第1セットの勢いを目の当たりにして、このスイス人はいったいどうやって、勝つためのストーリーを創作できたのだろう?あのサーブとストロークにさらされて、あと3セットとらないと勝てないというのに。それは途方もない作業に思われた。だが、それをこのスイス人はやってのけた。どんな精神構造をしているのだろう。
降雨による中断もあり、精神面も多いに試された二人だったが、やはり芝に愛されたプレイヤには、そうした障害も問題ではないのか、尻上がりにオールラウンダぶりを1歳下のライバルに見せつけ、ついに2連覇を果たす。
本当に見応えのあるゲームだった。